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横浜家庭裁判所 昭和63年(家)236号 審判 1988年3月11日

申立人 養父となる者 内山国広

申立人 養母となる者 内山久子

事件本人 養子となる者 内山孝

養子となる者の父母 不詳

主文

事件本人内山孝を申立人らの特別養子とする。

理由

1  申立ての要旨

申立人らは昭和57年1月○○市中央児童相談所のあつせんにより事件本人内山孝を引き取り、同年3月養子縁組を結び現在に至つている。また、孝の外に、同じく○○市中央児童相談所のあつせんにより昭和54年4月佐藤恵子を引き取り、昭和56年6月養子縁組をしている。恵子には母が存在していたが、事件本人孝については父母の存在が全く知れていない。この事実を将来孝が知つたときの本人の心情を考え、また、入学、就職等に際しての社会の実情を考慮すると、この時点で孝との間で特別養子縁組を成立させ、申立人らの実子としての地位を得させることが事件本人孝のために特に利益となると考えるので、主文同旨の審判を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書、当庁昭和57年(家)第××号養子縁組許可申立事件記録中の同調査官の作成の調査報告書及び各事件記録中の資料によれば次の事実が認められる。

ア  事件本人(養子となる者)は、昭和56年1月4日、出生直後バスタオルでくるまれた状態で○○市○○○区内に駐車中の乗用自動車の後部座席に置き去られているのを発見され、警察署を通じて○○市中央児童相談所に通告がなされ、直ちに保護の措置がとられ、○○婦人クラブ乳児院で監護を受けることとなり、○○○区長により横田孝と命名せられ、同児童相談所長が後見人と定められた。

イ  申立人らは昭和43年3月23日婚姻届出をした夫婦であるが、子供に恵まれなかつたところから、養子を迎えることを考え、昭和49年○○市中央児童相談所に里親登録をし、昭和54年佐藤恵子(当時3歳)を里子として引き取り養育し、家庭裁判所の許可を得たうえで、昭和56年6月11日養子縁組をした。

ウ  申立人らは、上記恵子のためにも更にもう一人養子を迎えることが望ましいと考え、○○市中央児童相談所にあつせん方を申し入れていたところ、同児童相談所は申立人らに対し事件本人孝をあつせんしたので、申立人らは昭和57年1月22日孝を引き取り、家庭裁判所の許可を受けたうえ、同年3月5日養子縁組をした。

エ  その頃、申立人国広は転勤でニユーヨークに赴任していたので、申立人久子は上記恵子、事件本人孝、申立人国広の母と一緒に一家でニユーヨークに移り住んだが、事件本人は現地の生活にとけこみ、元気に過ごした。

オ  昭和61年5月申立人らの一家は帰国し、申立人国広は勤務先の○○銀行○○支店長となつたので、現在単身赴任中であるが、近く一家をあげて○○に移転する予定である。

カ  事件本人孝は昭和62年4月○○市○○区○○小学校に入学し、元気に通学している。性格は明かるく、賑やかで、一家の人気者となつており、申立人らを実父母と思つてよくなついており、申立人らも同事件本人に深い愛情をそそいでいる。

(2)  上記の各事実に照らして考えるに、事件本人孝の実父母は氏名、所在ともに不明であつて、事件本人孝との法律上の親子関係を存続させることに何ら実益はなく、同事件本人が成人に達するまでこれを監護養育すべき責任を負うのは唯一申立人らのみなのである。そうすると、申立人らと事件本人孝との間に特別養子縁組を成立させ、法律上も申立人らを同事件本人の唯一の親とすることは、両者の関係をより安定、強固なものとすることとなり、同事件本人にとつて大きな利益をもたらすものと考えられるのであつて、本件については特別養子縁組の成立を認めるのが相当であると解せられる。

もつとも、申立人らは既に事件本人孝を養子としているのであるが、その養子縁組がなされた当時特別養子の制度が存在していたとするならば、本件では特別養子縁組が選択されたであろうと推測されるのであつて、このような場合、普通養子を更に特別養子とすることは、特別養子の制度を創設した法の趣旨に反しないものと解すべきである。

その他、本件において、民法817条の3から同条の6までに定める特別養子縁組の要件が具備されていることは記録上明らかである。なお、同法817条の8によれば、特別養子縁組を成立させるには、原則として、申立ての時より6か月以上の期間養親となる者が養子となる者を監護した状況を考慮しなければならないのであるが、本件においては、上記のとおり、申立人らは昭和57年1月以降引き続き事件本人孝を監護して来たのであり、その状況は家庭裁判所調査官の調査等により明らかというべきであるから、民法817条の8第2項を適用して、この段階で直ちに特別養子縁組を成立させることが許されるものと解する。

よつて、本件申立てを相当と認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 南新吾)

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